自己肯定感とは何でしょうか。
自己肯定感とは、1994年に心理学者の高垣忠一郎さんによって作られた言葉です。
言葉の歴史が浅いためか、意味を正しく理解されていない方が多く、『自信 』 『自尊心 』 『自己評価 』 などと、ごちゃ混ぜに使っている方が多いと感じます。
自己肯定感を正しく知る事は、様々なメリットがあります。
たとえば、充実した毎日を過ごすためのヒントになります。
挫折を経験し、心が傷つき、人生が苦しいと感じる時に、苦しみを軽くし、生きる元気を与えてくれます。
家族、恋人、友人、職場の同僚、ネットで知り合う友達などと、良い関係を築く事ができるようになります。
このサイトでは、自己肯定感をできるだけ噛みくだいて、わかりやすく説明していきたいと思います。
自己肯定感と自信の違い
まずは、大前提として自己肯定感と自信の違いを明らかにしましょう。
自己肯定感とは
自己肯定感とは、自分の『ありのままの姿』を肯定する感覚のことです。

自分を義務や期待や他人と比較せず、『ありのまま』存在する事が許されている
『ありのままの姿』とは、誰かから値踏みや評価される事のない、見たままの自然な姿です。
社会的地位や、お金をどれだけ持っているか、家族や友人関係、住んでいる場所、誰かに評価された事などを除く、自分自身の自然な姿のことです。『ありのままの姿』は、年齢や経験によって常に変化しています。体だけではなく、精神的なことも含みます。
「義務を果たさなければならなかったり、他者の期待に応えたりしなければ、ここに存在してはいけない」というような強迫観念がなく、「ありのまま、ここに存在を許されている」「失敗しても大丈夫」「自分は自分の思うがままに生きていて大丈夫」という安心感に、無自覚に包まれている状態を言います。
自信とは
それに対して、自信とは「自分の価値や能力を信じている状態」です。
「自分の価値」とはつまり、「人に評価してもらえる事」「自分は人より優れている部分がある」「自分は人の役に立つ能力を持っている」という、他者との比較によって自覚されるものです。
人より優れていたり、人の役に立つ能力というのは、『ありのままの姿』には存在しません。
人に認めてもらえる結果を出したり、馴染める服装をしたり、地位や肩書き、お金など、『ありのままの姿』に上乗せされたものが自信となります。

『ありのままの姿』に上乗せした自信
自己肯定感と自信を理解する手がかり~3つの自己~
自己肯定感と自信は、似ているようで大きく意味が異なります。
”自信がある人=自己肯定感が高い”という図式には、必ずしもならないものです。
”自信はあるが、自己肯定感は低い”という人もいるのです。
その理由を知るには、まずは自己に3つの状態がある事を知る必要があります。下の画像を見てください。

自己を表す3つの姿
①『ありのままの姿』とは、誰かから値踏みや評価される事のない、見たままの自然な姿です。社会的地位や、お金をどれだけ持っているか、家族や友人関係、住んでいる場所、誰かに評価された事などを除く、自分自身の自然な姿のことです。
『ありのままの姿』は、年齢や経験によって常に変化しています。体だけではなく、精神的なことも含みます。
②『あるべき姿』とは、要求される姿です。最低限「このような人間になっていなければならない」と、誰かに求められる姿です。
生まれたばかりの頃は、「よく寝て、よく食べて、元気に成長すれば良い」と望まれていたものが、いつしか「勉強で良い成績を取ってほしい」→「良い学校に進学してほしい」→「良い企業に就職してほしい」→「高収入を得てほしい」などと、年齢や周囲の変化によってどんどん高くなっていきます。
③『理想の姿』とは、将来の夢や目標の姿です。自分から望んでなりたいと願う、憧れの人物の姿や、ライフスタイルなどです。
自己肯定感と自信の違いを知るのは、この3つの関係を理解することから始まります。
”自己肯定感が低い”状態とは

自己肯定感が低い状態(ありのままの姿<あるべき姿)
”自己肯定感が低い”というのは、上の画像のように『ありのままの姿』が『あるべき姿』より低く、差が大きい時に感じるものです。
例えば、両親が厳しい家庭で育ち、偏差値○○以上の学校へ進学しなさいと望まれている子供が、入学試験に落ちてしまった場合です。
両親の望む『あるべき姿』になれなかった子供が、両親のがっかりする様子を見て「自分は価値がない。駄目な人間だ」と自分自身を卑下してしまうような時に、自己肯定感が低くなってしまいます。
『自己否定感が高い』と言い換えてもよいかもしれません。

差が自己否定感になる
自己肯定感が低くなってしまったら~4つの行動タイプ~
自己肯定感が低くなってしまった場合、人はどのように行動するのか。
行動の種類と結果によって、以下の4つのタイプに分かれます。
・行動タイプ2:あるべき姿を壊す
・行動タイプ3:理想の姿を思い描く
・行動タイプ4:苦しみ続けるか、諦める
それでは、順に解説していきます。
行動タイプ1:差を埋めようとする

自信のある状態(結果・服装・地位・お金などで差を埋める)
1つ目の行動タイプは”差を埋めよう”とする人です。
上の画像のように、『ありのままの姿』と『あるべき姿』との間にある差を、結果や服装や地位やお金など、別の何かで埋めようとします。
先ほどの厳しい家庭の子供の例で言うと、「高校受験では志望校へ入れなかったが、3年間勉強を頑張り、大学受験では志望校へ合格して両親を安心させた」という”結果”を出すことによって埋めます。
埋める事に成功した人は”自信”を得ます。
しかし、この行動によって”自信”を得た人は、その後の人生で、年齢と共に膨らんでいく『あるべき姿』に追いつくため、常に何かで埋める行動を続けて行く事になります。
大学に入れば、単位を取って卒業する事が『あるべき姿』になり、就職して働く事が『あるべき姿』になり、働いていれば出世して高収入を得る事が『あるべき姿』になっていきます。

膨らんでいく『あるべき姿』
『ありのままの姿』と『あるべき姿』の差を別の何かで埋めている訳なので、それを失ってしまう”不安”と常に戦い続けなければならなくなります。

自信は不安の裏返し
”自信”は”不安”の裏返しでもあるのです。
また、努力で結果を出してきたという自負のある人が、結果を出していない他人を見ると「努力が足りない」などと冷たく言い放ち、貶めるようになるケースがあります。これは、築き上げてきた”自信”が、ある日突然失われるかもしれないという潜在的な”不安”からもたらされるものなのです。
行動タイプ2:『あるべき姿』を壊す

あるべき姿を破壊する
2つ目の行動タイプは”あるべき姿を破壊する”人です。
先ほどの厳しい家庭の子供の例で言うと、「親に反発し、期待をさせないようにする」「グレる」「非行に走る」と言ったような行動をとるケースです。「不良タイプ」と言っても良いかもしれません。
『あるべき姿 』を低く設定させることで『ありのままの姿』を認めよう・認めさせようとします。
行動タイプ3:『理想の姿』を思い描く

あるべき姿を捨てて、理想の姿を思い描く
3つ目の行動タイプは”あるべき姿を捨てて、理想の姿を思い描く”人です。
先ほどの厳しい家庭の子供の例で言うと、「私は勉強に不向きだ。絵を描くことが好きだから美術系に進みたい」というようなケースです。両親から押し付けられる『あるべき姿』を捨て、『ありのままの姿』を見つめ、『理想の姿』を想像します。
他人や周囲の影響で作られる『あるべき姿』は、「こうあらねばならない」という精神的な圧力があり、他者や世間の価値観との比較によって、優越感から”自信”がついたり、劣等感から”自信”を失ったり、失う”不安”が生まれたりするものですが、それに対して『理想の姿』は、『ありのままの姿』の延長上に生まれるものであり、他人や周囲の影響で作られるものではありません。
「絵が好きだ」という『ありのままの姿』を成長させることで『理想の姿』へと近づこうとします。
また、行動タイプ2で『あるべき姿』を壊したあと、行動タイプ3の『理想の姿』を思い描く方向へ進む場合もあります。学生時代は乱暴者で荒れていたけれど、偶然テレビでボクシングを観戦し、自分もやってみたくなり、プロボクサーを目指すようになるというような例です。
家族や他者からの勧誘で始めるのではなく、ありのまま自分が興味を持てる事を見つけた場合に、この行動タイプ3が当てはまります。
また、出家などをして俗世間のしがらみを捨てるといったような行動も、ここに属します。
行動タイプ4:苦しみ続けるか、諦める

自己肯定感が低いまま
始めは行動タイプ1のように「差を埋めよう」と頑張りますが、必ずしも結果が出るとは限りません。競争社会では敗者が必ず生まれます。
親に反発する元気がない場合や、体力的に問題がある場合など、行動タイプ2のような「あるべき姿を破壊する」という行動も難しいケースがあります。
そして行動タイプ3のように『理想の姿』も見つけられない場合があります。(むしろ見つけられない人の方が多いかもしれません。)
行動タイプ1,2,3のどれにも当てはまらない場合は、自己肯定感が低いまま苦悩し続けるか、諦める事になってしまいます。これが4つ目の行動タイプです。

差を埋められずに苦悩する
”自己肯定感が高い状態”とは
自己肯定感が高い状態は、2種類あります。
・『理想の姿』を思い描いている状態
の2つです。
『ありのままの姿』と『あるべき姿』の大きさに差がない状態

ありのままの姿とあるべき姿に差がない
1つ目は『ありのままの姿』と『あるべき姿』の大きさに差がない状態です。
自分がここに居る事が、他者に望まれていると感じる事ができます。
ありのままの自分の存在が、肯定されている感覚を持つ事ができます。
『理想の姿』を思い描いている状態

あるべき姿を捨てて、理想の姿を思い描く
2つ目は、「『理想の姿』を思い描いている状態」です。先に触れた4つの行動タイプのうちの一つ「行動タイプ3」の状態です。
『あるべき姿』があると、『ありのままの姿』と比較してしまい、至らない自分を卑下する原因になってしまいます。
『あるべき姿』を捨てる事で『ありのままの姿』を積極的に肯定して理想の姿になろうとするので、低い自己肯定感が回復します。
自信とは~”自信がある人”の2タイプ~
自己肯定感に対して、自信とは何でしょうか。
自信とは「自分の価値や能力を信じる事」です。
「自分の価値」とはつまり、「人に評価してもらえる事」「自分は人より優れている」「自分は人の役に立つ能力を持っている」と信じている状態です。
人より優れていたり、人の役に立つ能力というのは、『ありのままの姿』には存在しません。
人に認めてもらえる結果を出したり、馴染める服装をしたり、地位や肩書き、お金など、『ありのままの姿』に上乗せされたものが自信となります。
”自信がある人”には、その自信の付け方によって2つのタイプに分かれます。
・理想に近づいたタイプ
の2つです。
では、順に解説していきます。
自己肯定感の低さを埋めたタイプ

自己否定感
4つの行動タイプのうちの「行動タイプ1」ですね。
『ありのままの姿』を否定し、『あるべき姿』になる為に、他の何かで埋めたタイプです。

自信のある状態(結果・服装・地位・お金などで差を埋める)
”自信”がついても、『ありのままの姿』を否定している事に変わりはありません。
つまり、”自信があって、自己肯定感が低い”状態です。
「ありのままの自分で居てはいけないから、努力などによって別の何かで埋めなければならない」という心の状態なのです。

膨らんでいく『あるべき姿』
埋めたものが失われ、自信がなくなると、その落差から強い自己否定感に苛まれるようになってしまいます。
理想に近づいたタイプ

理想に近づいた自信
このタイプは『あるべき姿』がないので、『ありのままの姿』との差によって感じてしまう自己否定感がありません。
そして『理想の姿』に近づく為に積み上げていくものが、そのまま”自信”になっていきます。
このタイプももちろん、積み上げているものが崩れる不安は常につきまとっていますし、崩れれば喪失感を味わいます。
しかし、「行動タイプ1」との違いは、自己否定感には苛まれないという点です。
自信を失っても、自己肯定感が高い状態を保てるので、他の行動タイプに比べて回復が早く、再起しやすい状態となります。
まとめ
自己肯定感という言葉を分解すると、次のようになります。
・「肯定」とは「存在が許される」こと。
・「感」とは「感覚」。
つまり「ありのままの自分という存在を許す感覚」という意味です。
他者との比較、両親や周囲からの期待、社会通念、競争などによって『あるべき姿』が作られていきます。
『ありのままの姿』が『あるべき姿』より低いと、真面目な人ほど自己を否定してしまいます。これが”自己肯定感が低い”状態です。
自己肯定感が低いまま自信をつけてしまうと、だんだん膨らんでいく『あるべき姿』によって精神的な余裕がなくなり、他者に対して攻撃的になります。
ありのままの自分を許せなければ、他人も許せなくなるのです。
それだけでなく、自信を失った時に強い自己否定感に苛まれ、苦悩することになってしまうのです。
ありのままの姿を肯定し、理想の姿を思い描けるようになる事が望ましいのです。
いかがでしたでしょうか。
今回は”自己肯定感”と”自信”の違いからアプローチしてみました。
自己肯定感の理解に少しでも役立てていただければ幸いです。
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